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「元気ー、寅雄」
パソコン画面には笑顔の彼女が映っている。
「元気だよ、兎左美も元気そうだね」
彼女は一年前僕の妻になった。
「結婚記念日のプレゼントありがとー」
妻は首元からティファニーのネックレスを手に取り画面に近づける。
「思った通りよく似合ってるよ」
妻の左手薬指には、一年前にあげたダイヤの指輪が光り輝いている。
「あのね、今日は凄い報告があるの」
元の位置に戻った妻は、背筋を伸ばして正座をし、神妙な面持ちの中に少しの微笑みを見せた。
「な、なに、凄い報告って?」
僕も神妙な面持ちで聞き入れ体勢に入る。
「実はねー」
今から何を聞かされるのか、
「う、うん」
生唾を飲み込む音が聞こえないよう口元を閉じて返事する。
「子供が出来ちゃいました!」
妻の微笑みは満面の笑顔に変わった。
「えっ……
えっ?」
僕は当然聞き返した。
何故なら、僕達はオンライン婚活で知り合い、オンラインでプロポーズし、ダイヤの婚約指輪も郵送、婚姻届もネットで済ませた。
「なに?喜んでくれないの?」
妻は悲しそうな表情を浮かべるが、
「い、いやだって……
僕達、知り合って結婚して今まで一度も会ったことないだろ」
オンライン夫婦生活の中で子供が出来たと言われても困惑してしまう。
「一度も会った事がなくても、私達夫婦だよ」
妻は涙を浮かべてお腹を摩りながら、画面の向こうで話を続ける。
「この子は私達夫婦の子。
これからオンライン夫婦じゃなく、オンライン家族になれると思っていたのに……」
お腹を摩ったまま泣き崩れる。
「そ、そっか、そうだよな。
僕達夫婦だもんな、その子と一緒に幸せな家族になろう」
僕は精一杯の笑顔を画面に向けた。
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