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「子供相手に、なんちゅーえぐい話をきかせてるんだよ」  ハイシロが振り向くと、暖炉の間の戸口に呆れ顔のツキシロが立っていた。 「でも、大事な話、だよ」 「……大事な、ねぇ」  自分に掛けられていた膝掛をハイシロに返しながら、ツキシロは短くため息をついた。 「ツキシロ、旅にでてたの?」  クッションを抱きかかえてフレアが無邪気に聞く。 「うん。ずっと前にね」 「じゃぁ、『よくばりな王様』がいたのも、ずっとずっと前?」 「そうだよ。うーんと前のこと。今の大陸なら、あんな王様が現れることは無いよ」 「よかったー。じゃぁ、二度と軍隊がくることは無いんだね」 「もちろん。安心していていい」  ツキシロはフレアの隣に座ると、金茶の巻き毛を優しくなでた。 「シロガネって、鳥以外にも変身出来るんだね」 「まぁね」  自分の爪が肉を切り裂く感覚を厭うて、以降、シロガネは獣に変じることをすっかりとやめてしまった。最近ではニンゲンの姿に戻ることも面倒がって、鳥に変じたまま最奥の間をすみかとして気ままに生活している。老賢者の末席候補でもあるが、そんな柄ではないとのらりくらりしていた。 「クロベニ様って、以前は近衛部隊長だったの?」  老賢者たちの下にある執行部にいるクロベニは、今はハイシロの上司にあたる。王宮内ではハイシロにくっついて回っているフレアにとっては、時々お目にかかる真っ黒衣装のこわいオジサマだ。 「そういえば、ツキシロが旅をしていた時に知り合った青の民と歌姫の夫婦んとこ、子どもがいたよね?」  刺繍糸を付け替えて糸の癖を直しながら、ハイシロが話を振った。ああ、とツキシロが応じる。 「セイランとこの子ね。えーと、ソラじゃなくて……そうそう、テン! セイラン似の超イケメンだってカプリから聞いた」 「え?いつ会ったのよ」 「雪が降る前に奥の泉の掃除に行ったらさ、たまたまカプリたちも泉の底の掃除にきててさ、怒涛の惚気話と一緒に自慢の息子の話も聞かされたってわけ」 「わー……そのタイミングかー。機会があったら私もおしゃべりしたかったなー」  真冬になると老賢者のなかに冬眠するものが出るので、冬に入る前の執行部は、前倒しの仕事が増えて大忙しだったのだ。仕事中に席を外そうものなら、確実にクロベニの大目玉をくらう。 「いつか会いたいなー。春になったら遊びに来てくれないかなぁ」  ハイシロは目を細めた。双子の話を興味深げに聞いていたフレアは、クッションを抱きなおすと目をキラキラさせた。 「旅で色んな人に会ったのね。今度は、ツキシロが旅した時の話をしてね!」 「近いうちに、いつかな」  ツキシロは微笑んだ。暖炉の薪が小さく爆ぜた。玄の国の冬は長い。                             <終わり>
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