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 ツキシロが護身用に持っていた小剣では、鎧甲冑姿の男には歯が立たなかった。水晶の時計を抱え、怯え固まっているハイシロを、男は容赦なく揺さぶり脅した。男が軍を率いて襲ってくる理由を、護衛の二人から聞いてはいたが、悠久の時を生きる双子には男の欲望の意味が今一つ理解できて居なかった。ただ、男の目的は双子の「力」なので、おそらく双子には危害を加えることはないであろうこと。それゆえ、男の前では決して力を行使してはならぬことを厳重に言い含められていた。  ようやっと王宮の近衛部隊の残党が馳せ参じ、普段は平和な奥の間は、ますますもって阿鼻叫喚の坩堝と化した。耳を覆いたくなる悲鳴と怒号の渦の中、クロベニが薙ぎ払った兵の片腕が血の緒を引いて飛び、夢見草の幹にあたって双子の目の前に落ちた。
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