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 玄の国の冬は闇に沈む。特に冬至あたりは太陽が昇らない。一日中夜のようなもの。外での作業はできないし、室内での遊びにも飽きがくる。今年ようやく十歳になるフレアは、金茶の巻き毛をふわふわと揺らしながらハイシロが居る暖炉の間にやってきた。 「ん? どうした?」  戸口から頭だけ出して部屋をのぞき込んでいる少女に、刺繍の手を止めてハイシロが微笑む。ハイシロの手には彩にあふれた花の刺繍を散りばめたドレスがあった。春になったらフレアに着せるために、せっせと刺しているのだ。 「ツキシロ、寝ちゃったから……」 「あらら」  ハイシロは立ち上がり、フレアの後をついて白練(しろねり)色の絨毯を敷き詰めた子供部屋に行った。部屋の真ん中に敷いたムートンの上で、突っ伏して寝息を立てている双子の姉に、持ってきた膝掛を掛ける。 「ツキシロと何してたの?」 「書き取りのおさらい、見てもらってたの」 「そっか…。ツキシロってば、暗くなる前にって、ここんとこ外回りの仕事で呼ばれることが多かったからね。疲れちゃったのかな。このまま寝かしておこうか。…フレアは、私のとこにおいで」 「うん」  フレアは絨毯に広げていたノートとペンの入ったトレイを拾い上げると、眠っているツキシロの額にそっとキスをして、部屋を出た。 「ねえ、ハイシロ、何かお話をして?」  暖炉の前にクッションを重ねていたフレアは、ハイシロに振り向いた。ハイシロは、肘掛け椅子に座って針を手に作業を再開しようとしていたところだった。 「んー、どんなお話がいい?」 「みんなが出てくるのがいい!」 「……みんな、か……、そうだな。じゃあ、『よくばりな王様』のお話でもしようかな」  フレアは、(はしばみ)色の瞳を見開いた。 「初めて聞くお話!」 「そうね……初めてするお話だね」  ハイシロはやさしく微笑んだ。
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