貧困と詐欺

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貧困と詐欺

1 「迷える子羊たちよ!私と一緒に人生を成功しよう!」 そんなことをみんなの前で叫んでいる気持ちの悪い集会を思い出した。 確か、大学2年生の時のマルチの勧誘だったか。 大半の人間は、馬鹿にしたように鼻を鳴らしてさ、 最終的には数人のカモが引っかかっててさ。 「バカなことはよせ」って必死に洗脳をとこうとする人もいたね。 珍しい経験ができた。 少なくとも俺は、実際に詐欺をする日までは、 自分の人生とは無縁だと思ってた。 だから若いうちに金稼いで老後は働きたくないと考えてたんだよ。 金のある人生と金のない人生だったら後者が絶対いいに決まってるからな。 実際に詐欺をやったときは、ひっくり返りそうになったぜ。 どうやらこの世にはバカが多いらしいらしいんだよ。 2 二十三歳の七月くらいの時の話なんだが、 その頃、俺はとにかく金に困ってた。 別に貧乏なわけじゃないさ、 ただ、こんなに辛く孤独な日々が一生続くのかと思った。 金になることはたくさん思い浮かんだがリスクがデカすぎた。 世間はコロナの給付金詐欺やメルカリの転売で賑わっていた。だから、俺も一枚噛ませてもらおうと思ったわけだ。 3 市役所のおばさんは、すんなりと給付金申請を受け付けてくれた。 人を騙すのは初めてじゃない。そういえば、昔父親のビットコイン脱税用に口座を作ったことあったな。 おばさんは愛想良く貯金や生活の話を聞いてくれた。 いたたまれなかったな。騙してるから仕方ないけど。 数日後に金が来るらしい。書類を受けとって市役所を出た。 俺は道に這いつくばる汚いホームレスをみた。 金をくださいって書いたダンボールを持っているのを見てさ。 悪魔が囁いたんだよ。こいつらで生活保護だまし取れねーかなって。 4 難しいなと思いつつ、 俺は試しに市役所に自分の部屋をホームレスに住まわせたことにして申請した。 つまりは、こういうことらしい。 必死にジジイのうんこついたけつを拭くより簡単に金は稼げた。 そこで俺は、ホームレスをたくさん飼って金を得ることにした。一匹で10万利益がはいれば十匹で月百万だからな。 勧誘されるホームレスは震える手で俺の手を握り感謝の言葉を口にするんだ。ありがとうって、そんなうまい話、ホームレスの爺さんの願望が作り上げた 空想に過ぎないって思ってさ。 ちょっとかわいそうに思ったね。死ぬの怖えんだろうな、って。
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