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──三月。
春の足音が聞こえてくるには程遠い冷たい空気が、昼下がりの街を包み込んでいた。
天気予報によれば、今日は一日この調子らしい。 どこかの街では、季節外れの雪が降るって言ってたっけ。
少女は頭上を覆う鈍色の空に辟易としながら、首元に巻き付けたマフラーに顔を埋めた。 目的地の公園まではもう少し距離がある。 不要不急の外出を咎められているご時世ではあるけれど、少女は歩調を緩めるわけにはいかなった。
肩に担いだ鞄の中で、タブレットが揺らいでいる。 少女はなるべくタブレットに傷が付いてしまわぬよう、鞄を脇で挟み込んだ。 そうすることで多少は心の揺らぎも落ち着くような気がした。
「……さて、と」
不織布のマスクを口元まで下ろすと息苦しさは半減された。 蒸していた口周りが外気に晒されてひんやりする。 顎先にひっかけた状態が楽なんだけどそうもいかないので、すぐにマスクを定位置に上げた。
なんとも生き辛い世の中だと思う。
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