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少女は空を仰いで涙を堪え、一度だけ深く呼吸を行った。 魂のように白い息が鈍色に吸い込まれていく。
『ミサキ。 久し振りだね』
タブレットから、久しく聞いていなかった母の声が流れる。 慈愛に満ちていて、少女──ミサキを全霊で包み込むような温かさがあった。
「……うん。 久し振り」
言葉が震えるのは顔を上げているからなのか、あるいは……。
ミサキは強く瞼を閉じ、泣いちゃダメだ、泣かないで、泣くな、と散々自分に言い聞かせた。 そんな飲み込めそうで飲み込めない錠剤を口に放った気分で、ミサキは画面と向き合う。 母は変わらず、柔らかな微笑みを湛えていた。
これは、ここにいる母はなんともまあ……。
『お父さんと二人で、元気にしてたかな。 ご飯、ちゃんと食べてる?』
「だ、大丈夫だよ。 わたしは元気だから。 お母さんは、心配しないで」
『そう? それじゃあ安心できるわね』母はほっと胸を撫で下ろす仕草をし、『ところで今日はミサキ、お母さんに伝えたいことがあるんだよね』
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