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今日は"Puesdo Romance"デー。
そのワードが意味する通り、客達が、キャストカードに従って偽りの身分を演じ、擬似恋愛を楽しむ日のこと。
あらかじめ合意のもとでイベントに参加している以上、もし相手に不満があっても、割り当てられた配役を変更することはできない。
倉木が前回参加したときは、ひと回りも年上の男が相手だったので、今日は当たりの回だった。
もちろん恋人の役を演じるので、おさわり全般何でもあり。
このクラブの中での本番行為だってオールオッケー。
配られるキャストカードによっては、自分のタチネコだって変わる場合がある。カード末尾の★マークはタチの証。ネコの場合、ここがハートマークに変わる。
一風変わったワンナイトを楽しみたい富裕層から、このイベントは絶大な支持を得ていた。
分厚いカーテンで仕切られた奥のフロアの一角に、さっそく目当てのテーブルを見つける。
こちらを背にし、ソファにもたれて座っている、線の細く若そうな人影が。
・・・へえ。あいつが今日の相手か。後ろ姿は美人だな。
ほとんど白に近い輝くような金髪が長めに切り揃えられていて、シャンデリアの光を周囲に反射させている。
思わず喉を鳴らした。
・・・どうやら今回は本当に当たりらしい。
緩みそうな口元を引き結び、近寄って青年に声をかけた。
「やあ。待たせたね」
真っ黒なカクテルを目の高さに持ち上げ、自分がキャストのひとりだとアピールする。
「何だ。思ったより早かったじゃん」
呼びかけに応じて振り返った青年の顔を見て、思わずグラスを落としそうになった。
「今日もかっこいいね。さ、座ってよ」
形の良いくっきりとした二重が、蠱惑的に吊り上がっている。視線がぶつかると、猫のような瞳がゆっくりと細められた。
一枚の紙にすっと切れ込みを入れたような薄い唇が、ほんのりピンクに色づいている。かすかに開かれた口元から、ビビットなほどに赤い舌が覗いた。
既視感のある、ハッとさせられるほどのこの美貌。
かつて自分が道ですれ違い、一目で恋に落ちた、この子は・・・
甘えるように指先を握られると、そのまま濡れた音をたてて唇が押し当てられた。
「僕と飲むの、嫌?」
固まったまま動かない倉木に焦れたように、青年は口を窄める。
「まさか。楽しみにしていたよ」
ぎこちない笑みを浮かべて、なんとか動揺をおし殺した。
・・・これは、何かの夢か?
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