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ソファに浅く腰掛け、もう一度青年の顔をまじまじと見た。
・・・間違いない。あの子だ。
中性的な美しさから目が逸らせない。倉木は、かつて自分が犯した愚かな過ちを思い出していた。
もう5年以上も前のこと。
完璧に理想の人間なんて、人生で絶対に出会うわけない。そう思っていた。
ーーーあの日までは。
あれはまだ、倉木が今の会社に転職して間もない頃。
引き継ぎがあらかた終わり、ようやく残業せずに帰ることができた日のこと。久しぶりにバーに立ち寄って飲んで帰ろうと、繁華街を歩いていた時だった。
一人で入れそうな落ち着いた店を探していると、ネオンに紛れて目立たない、レトロな木製の古いドアが目に入る。
クラシカルな雰囲気に惹かれ、今夜はここで一杯飲もうと決めた、その時。
軽やかなドアベルを鳴らしながら扉は開き、中から、プラチナに輝く髪が眩しい美貌の青年が現れた。
肩につかないくらいの長さの髪を鬱陶しそうにかきあげ、火のついていないタバコを一本くわえている。
歯の隙間から覗く真っ赤な舌が艶めかしく、思わず倉木は息を呑んだ。
再び開いたドアから、連れらしき男が出てくる。ワイシャツに黒いスラックスというビジネスマンのような格好をしていたが、ツーブロックに刈り上げられた黒髪に顎髭、袖まくりされた腕に彫られたタトゥーから、昼の仕事をしているようには見えなかった。
ワイシャツがピンと張っていて、服の上からでも筋肉が発達しているのがわかる。
男は顔をしかめると、青年の口元からタバコを抜き取る。青年は妖艶に微笑み、
「口寂しいんだよ」
「ならこっちにしとけ」
男は青年の首の後ろに手を回し、薄く開かれた唇に分厚い舌をねじ込むと、そのまま貪るように吸い付いた。
これ以上見てはいけない。すぐにそう思ったが、犯されるように唇を吸われる青年の、苦しげで色っぽい表情に体が反応し、目が逸らせなかった。
二人は体を密着させるように強く抱き合い、互いの舌を煽情的に擦り合わせている。唾液が滴りそうになる度、舐め取るように舌を絡め合っては、どっちのものかもわからなくなったそれを、うっとり見つめ合いながら音を立てて飲み下す。
青年は片方の足を男に絡め、しきりに腰を揺らしている。気づくと、男は青年の尻を鷲掴みにしていた。
男の方が、倉木に気づいて鋭い視線を投げてよこす。
倉木はハッとしたが、どうしても立ち去ることができなかった。
青年は脱力したように男にぶら下がっていて、赤く腫れた唇はだらしなく開いていた。荒くなった吐息とともに、甘い喘ぎ声が漏れている。
男は青年の腰を抱きかかえ、二人はそのまま路地裏に消えていった。
倉木は酒を飲もうとしていたことも忘れ、フラフラと二人のあとを追っていく。
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