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そんなことを言われても、全く想像がつかない。
「・・・ね、このカクテル美味しいんだよ。翔も飲もう?」
そう言って、ミツキはテーブルに置かれたグラスを指差した。興奮でぼうっとする頭を何とか働かせつつ、ミツキを窘める。
「こら。ダメだよ。飲み干してしまったら、この時間が終わってしまう。・・・君だってこのまま終わりは嫌だろう?」
再びミツキに口付けようとすると、唇に人差し指を当てられた。くすくすと軽やかな笑い声。焦らされているのか、のらりくらりと躱されることに、そろそろ苛立ちを覚えていた。
「だぁいじょうぶ。ほら、カクテルならもう一杯あるから」
言われ、再びテーブルを見る。確かに黒く独特の液体が入ったグラスが、もう一つ置かれていた。
「はあ。わかったよ。飲んだら、さすがに答えてくれるよな?」
「夜は長いんだから、ゆっくり進めようよ。がっつくなんてもったいない」
「人を散々煽っておいて、ずいぶんと意地悪なことを言うね」
倉木はグラスを掴むと、そのまま一気に喉に流し込んだ。
「さあ。これ以上はもう待てないよ。正解は何だい」
「ふふ。雄って感じでかっこいいね。翔ならきっと、今まで寝た相手の中で、一番僕を満足させてくれそう」
その言葉に、嫉妬で心が炙られる。
「他の男の話なんか出して、私を煽りたいなら大成功だよ」
「煽るだなんて。本心から言っているのに」
ミツキは倉木に手を伸ばし、人差し指をそっと耳に差し込んだ。そのままクルクルと、内側を撫でられる。思わず舌打ちをしそうになった。
・・・こいつはとんだ性悪だ。”待て”は、まだ解けないのか。
「昔さ、刺青がとてもセクシーで好みのイイ体をした男がいたんだけど、そいつ自分本位のセックスしかしなくて。・・・好みど真ん中の責め方してくる優男もいたけど、年下だったし全然雄っぽさがなくて物足りなかった。その点、翔はちょうどいいよ」
苛々と、どす黒い嫉妬が倉木を暴力的な気持ちにさせる。何とか落ち着こうと感情を鎮めていたところで、ふと違和感に気づいてしまった。
・・・あれ、今の話。何だろう、デジャヴだ。
そこで思い出す。かつてミツキをストーキングしていた時に、ミツキと一緒にいた男たちのこと。
・・・今の話はアドリブではないのか?てっきり、このキャストカードに従って演技をしているのだと思っていたが。
ミツキは、相変わらず本心の読めない笑みを浮かべている。
そういえば、先ほどもミツキは倉木に家族の話を振っていたことを思い出す。カードには、自分に家族がいるなんて設定は書かれていなかった。
ならあれは、倉木自身の話を聞いていたのか・・・?何も考えず、普通に答えてしまったけれど。
腑に落ちない何かが、倉木の心を少しだけざわつかせた。
もしかして、ミツキは倉木の素性を知っているのか。それとも、いい歳をした男に家族がいないわけがないからと、思いつきで言葉を発したのか。
「まあでもあんなこと、本当に好きになった相手にはしたくないし。逆にあいつらで良かったかな」
ミツキの言葉にハッとして我に返る。いけない、情事の最中に考え事をするなんて。
ひとつため息を吐くと、倉木はミツキに微笑みかけた。
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