【完結】Ep1. FUCK JOY SHIT

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【完結】Ep1. FUCK JOY SHIT

 六本木の奥まった通りに(たたず)む、ゲイ御用達(ごようたし)の高級会員制クラブ”Fake ACT”。  ここでは毎月10日、夜8時前に店に足を踏み入れた客限定で、ちょっとした大人のお遊戯(ゆうぎ)を楽しむことができる。  倉木(くらき)(しょう)はこのイベントの常連だ。店に到着するだいぶ手前で歩調を緩めつつ、妻へ、帰りが遅くなるといつものように連絡を入れる。 「・・・そう、この日はどうしても社長の接待が入っちゃうんだよ。・・・ああ。うん。ありがとう。理解がある妻を持てて嬉しいよ。それじゃ。・・・ん、俺も愛してる」  終了ボタンをタップすると、倉木は急ぎ店へ向かった。腕時計を確認すると、19時56分。  ・・・そうそう、今日は接待なんだよ。俺へのね。  心の中でほくそ笑みつつ、場違いに(さび)れた安っぽいドアをノックする。   「・・・はい」 「どうも。倉木です。夜の部に参加をしたく」  ガチャガチャと鍵を開ける音がする。中から現れたのは、ピンク色のモヒカンに、顔中ピアスだらけの大男。いかにも屈強(くっきょう)な体をしており、もし斧でも持たせたら、ハリウッド映画に出てくるようなサイコなシリアルキラーに見えそうだ。 「どうぞ」 「ありがとう」  中へ入ると、そのすぐ奥には、防音性の重厚な扉がもうひとつ。  モヒカンの男は備え付けられた指紋認証に薬指を押し当て、ドアのロックを解除する。 ・・・ああ、やっと。  高鳴る胸にそっと手を当て、深く深呼吸する。  ドアの内側に広がるラグジュアリな店内は、すでに多くの客で賑わっていた。  どの客も、分別のありそうな大人たちばかり。  そんな男たちが、このイベントに参加するために早く仕事を切り上げ、いそいそとここにやってきたのだと思うと、それだけで興奮が止まらなかった。にやけそうな口元を手で覆い隠す。  クロークに荷物を預けると、倉木はすぐにカウンターへ向かった。 「ご来店ありがとうございます。ご注文はいかがいたしましょう」 「”Black Cast(ブラックキャスト)”で頼むよ」 「かしこまりました」  バーテンダーの青年は手慣れた様子でカクテルを作り始める。今日だけで、この特殊なカクテルをいったい何杯分作ったのだろう。  黒真珠のような液体をグラスに注ぎ入れると、一枚のカードを添えてカウンターの上をそっと滑らせる。 「ありがとう」  満面の笑みで答えると、すぐにカードをとって裏をめくった。 ”今日のあなたは、大手芸能プロダクションの顧問弁護士です。スキャンダルの訴訟が原因で知り合った、アイドルの恋人との密会を楽しみにここにきました。 恋人の青年はオパールエリアの4番テーブルでお待ちです。 さっそく声をかけに行きましょう!★”   ・・・ふうん。悪くないじゃないか。アイドル役か。年下だといいな。あとは顔も、倉木の好みであれば文句のつけようがないんだけれど。
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