付喪神はカレーがお好き

2/4
前へ
/4ページ
次へ
「ええ、早くいただきましょう!」  再び小さな椅子に腰掛け、私は食い入るように目の前のカレーライスを凝視しました。お肉や野菜が、普段食べているレトルトカレーと違って形を保っています。一体、どんな食感が楽しめるのでしょうか。  ちなみにカレーライスが盛られているこの皿も、とあるオンラインのフリーマーケットで購入したものです。かなりの年代物らしいですが、真ん中に描かれた木や鳥の絵は今でも鮮やかさを保っているので、気に入って最近はずっとこれを使っています。 「「いただきます!」」  そんな(おもむき)ある皿に盛られたカレーライスを右手のスプーンですくい上げ、私は勢いよく頬張りました。 「うまい! さすがは売り切れ続出のスペシャルカレーだぜ!」 「ホント! こんなに美味しいカレーを食べたの、生まれて初めてです!」  口の中でホロホロと溶けていく、ルーと一体になった牛すじ肉。それにゴロゴロと形の残ったニンジンやジャガイモも、ルーの味に負けない甘さを持っています。普段食べているレトルトカレーも美味しいですが、今回のものは格別ですね。  二口目を口に運ぶ前に、私はあることに気付いて椅子を立ちました。席を立つやすぐそばに山積みしてあったペットボトルのお茶に視線を移すと、背後から申し訳なさそうな轆轤首さんの声が聞こえてきました。 「あっ、すまんツクモノ。自分のビールは持ってきたのに、お前の飲み物は置き忘れてた」 「いえいえ、お気になさらず。これぐらい、自分でできますから」  轆轤首さんには洗濯や食事の用意など、私にできないことを普段からたくさんしてもらってます。それに今日も、仕事で随分とお疲れの様子。この程度のこと、私がして当然です。  しかしペットボトルを手に取って席に戻った時、私はある異変に気が付きました。 「あれ……私のカレーライス、半分なくなってませんか?」 「お前、食うの早いもんな」 「そうじゃなくて!」  皿に盛られていた私のカレーライスが、お茶を取りに席を外した隙に半分もなくなっていたのです。これにはいくら轆轤首さんにつまみ食いの癖があると言っても、許されることではありません。何せ今日の夕食は、スペシャルなカレーライスなんですから。 「私、まだ一口しか食べてないんですけど!」 「ん? そうだっけ?」 「そうですよ! 一口食べてすぐ、お茶を取りに行ってたじゃないですか!」  その訴えを聞いてもなお、澄ましたような表情を浮かべてビールを飲む轆轤首さん。それを見て私は憤慨(ふんがい)しました。 「ずっと言おうか迷ってましたが、もう限界です! 轆轤首さん、私のご飯をつまみ食いするのやめて下さい!」  すると轆轤首さん、今度は驚いた顔で私を見てきました。なんと白々しい、私のカレーライスを半分も食べておいて、よくもまぁそんな表情ができるものです。 「し、知らねーよ! 第一アタシは、まだ自分のカレーに全然手ェつけてねぇだろ!」 「だからこそです! 私のカレーライスを食べてたんですから当然でしょう!」 「アタシがビールを優先させてるからだ! てかお前、普段からアタシがつまみ食いしてるみたいに言うな!」 「つまみ食いしてたでしょう! 嘘つき! 私の目は騙せませんよ!」 「……んにゃろッ!」  あたかも自分の無実を主張するかのように、轆轤首さんは首を伸ばして私に迫ってきました。 「そこまで言うならアタシの胃袋、全部ひっくり返してやろうか!? まだ飲み込んだばっかりだから、吐けばそのまま出てくるだろうよ!」  威圧的な言葉を向けられ、さらには目の前に彼女の顔が現れたとなると、つい私も怯んでしまいます。「ほ……本当に食べてないんですか?」 「だからそうだって言ってんだろ!」 「じゃ、じゃあ一体誰が私のカレーを……」
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加