無彩

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 気がつけば私は絵を使ってしかコミュニケーションが取れないように育っていた。絵を描けば周りに人が集まり、友人がカタチだけでもできた。だから、私は絵をやめることができないままに、高校生になった。当然のように美術部に入る。そこでも天才だとか、変わっているだとか言われるけれど、どこか満たされないまま作品をひたすら生み出した。  絵を描けば、言葉なんていらなかった。空気の読めない、落ち着きのない私は手を動かしているから奇行を取る時間も減った。  ありのままで笑っていられるほど、私には魅力がなかった。無能で、愚図で、バカだった。ひたすら伸ばした長い髪に、不健康なぐらい白い肌。食事を取ってもカロリーが消費されるのか、ゾンビのようにやつれた痩せぎすの肉体。知能は明らかに低く、運度神経もなかった。  だから、私には描く以外の選択肢はなかった。好きだとか嫌いだとかそんなえり好みはできなかった。さみしかったから。絵を描かないことで失うことがあまりにも多すぎて、私は筆を折ることができなかった。  生きることは苦しくて、惨めで、気味が悪い、だから、私は描かなければいけなかった。
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