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二
世界がこんな状況であっても、土曜3時の桜木町駅前は、とにかくガヤガヤと騒がしい。さすが日本屈指の観光スポット・天下の横浜みなとみらいだ。
「広瀬さん、急にごめんね。大丈夫だった?」
そんな桜木町駅をバックに、わたしの「カレシ」・深沢くんは、ちょっと申し訳なさそうな顔をする。
私服、初めて見たけど、エンジのセーターの下に白いシャツを着て、その上からマウンテンパーカーなんて絶妙なはずし方をしていて、意外にも彼のセンスはなかなかいい方だということがわかった。
「あー、めっちゃ暇だったし、大丈夫。急にどうしたの?」
「……へへ、実はね……」そう言って彼は、うれしそうにほほ笑む。「バイトがんばったおかげで、携帯、やっと変えられたんだ!」
「……携帯?」
一体どういうことだろう。そんなわたしのことは置いてけぼりにして、彼は興奮気味に話す。
「そう、最新のトゥエルブ!
イレブンの時点でトリプルカメラではあったけど、トゥエルブはさらにすごくて、あっあとアイサイトはもちろんだけどフェイスタイム……あ、インカメのことなんだけど、そっちも画素が増えてすごくきれいで、なんてったってナイトモードがやばくって……」
そう言って、なんだかよくわからない言葉を並べ続ける深沢くん。
そういえば深沢くん、写真部だって言ってたっけ。それもつい最近知った情報だけど。
思わず彼のマスクを見つめながらぼうっとするわたしの顔を見て、彼は途端にはっとした顔になった。
「あ……、ごめん。カメラとかデジタル機器が好きで、つい……。
いい天気なこともあってとにかくいい画が撮れそうだったし、やっぱり、広瀬さんとデート、してみたかったし……」
そうもごもごと話す彼に、なんだかわたしもちょっと恥ずかしくなってきて……。
「……で? いったいどこに連れてってくれるっていうの?」
恥ずかしまぎれに言ったわたしの言葉に、深沢くんは、目をぎゅっと細めて笑った。
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