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この船は、戦前から活躍している客船だったらしい。なるほどたしかに深沢くんの言う通り、大正ロマンな感じがして、ロマンチックでちょっとかわいい。
「あ、あのランプとか、いい感じ! あそこの椅子とか、窓ガラスの装飾も!」
そう言うわたしに、深沢くんはふふっと笑った。
「やっぱり、広瀬さん好きだと思った。
広瀬さんって、わりとロマンチストだよね」
「なっ……。それ、どういうこと?」
「国語の宿題で、短歌を作るってやつ、あったじゃん。おれ広瀬さんのやつ好きでさ。
とくにあれ。『本当に、マジでウイルス、許さない、受け取りそこねた、あなたの胸の』とか……」
「わっ、わーっ、ちょっとやめて! なんで覚えてるのそんなの!
しかも暗記して読み上げないでよっ!」
慌てるわたしに、深沢くんはけたけたと笑う。
「第二ボタンのことなんて詠むところが、意外と古風でロマンチストだなぁって。
あと、なんかかわいいなぁって」
か、かわっ……!?
「……それ、ばかにしてるでしょ」
「し、してないよ! 本当にそう思っただけなのに!」
思わず毒づいてしまうわたしと、慌てる深沢くん。
言われ慣れない「かわいい」なんて言葉と、彼の声が、なぜか耳から離れずに響き続けた。
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