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「こんにちは! さっき電話した深沢(ふかさわ)です!」 「はい、深沢(ふかさわ)様ですね。……えーっと……」 「学生2枚! の、深沢(ふかさわ)です!」  相変わらず彼は元気に、そうスタッフさんに伝えた。  スタッフさんの向こうには、ざっと30人くらい乗れそうな船が見える。 「えっと……もしかして……」  なんだかそわそわしてきたわたしなんてお構いなしに、彼は恥ずかしそうに笑った。 「写真好きとしてはずっと気になってたんだけど、さすがに、ひとりじゃ乗れなくて……。  それに、たぶん広瀬(ひろせ)さんも気に入ると思ってさ!  彼女ができたら絶対来ようと思ってたんだ!」  そんなことを言いながら、彼はスタッフさんに案内されて、いそいそとその船に乗り込んでいく。  時間はちょうど、夕闇の青色が、帳を下ろしかけた頃だった。 「まずは右手にベイブリッジ。 左側にはみなとみらいの夜景がありますが、今は少しの間だけお別れでーす!」  テンション高くそう言う彼に、わたしは必死に話しかける。 「……ねぇ深沢(ふかさわ)くん、夜景クルーズなんて、それ、お高いんじゃないっ!?」 「え、なぁに、風で聞こえなーい!」  う、嘘つけ! 絶対とぼけてるでしょ!  いよいよ彼の財布が心配になってきた。「第一スマホ買ったばっかりで貯金なくなっちゃったでしょ」、なんて伝えると、「いいからいいから、実際そこまでじゃないし」なんて適当にあしらわれて煙に巻かれる。  「次のデートはわたしが色々出そう」、そんな風に考えて、次のデートのことなんて考えている自分にちょっと戸惑ってしまった。 「そっちじゃ船内アナウンス、よく聞こえないよね。  あの船、持ち主のいない捨てられ船なんだって。そんなことあるんだね!」  風でガイドの声がよく聞こえないわたしのために、ガイドさんの言ったことを繰り返して伝えてくれる深沢(ふかさわ)くん。  ずうっと続く彼のガイドと、広がる美しい工場夜景を見ていると、なんだかだんだん、彼の優しさが心に沁みてきた。  深沢(ふかさわ)くんは、いい子だな。  なんでわたしになんて、告白してくれたんだろう。  「彼氏がほしかったから」。そんなくだらない理由で深沢(ふかさわ)くんのことを受け入れた自分が、途端に恥ずかしくなる。  深沢(ふかさわ)くんみたいな優しい男の子なら、きっと、わたしなんかよりもずっとかわいくて、性格もいい、素敵な彼女ができるはずなのに……。  そう思うと、ちくりと胸が痛んだ。
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