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五
「あー、すっごいキレイだった!
ねぇ、もうちょっとだけ大丈夫? 最後に汽車道を歩いて帰ろうと思うんだけど」
時計を見ると、時間は六時前だった。
「あと、もう少しだけなら……」
「おっけ、最後まで夜景を楽しんでこ!」
そう言って深沢くんは歩き出す。その間にも色々話しかけてくれたけれど、なんだかうまく受け答えをすることができないでいた。
彼の向こう側に見える大観覧車のネオンが、なんだかすこし、にじんで見えた。
「……ねぇ、深沢くん」
ふと、わたしは、彼の名前を呼んだ。
言わなきゃいいのに。そう思っても、もう、伝えずにはいられなかった。
そんなわたしの思いは露知らず、深沢くんは優しく「なぁに?」なんて返事をしてくれる。
わたしは、覚悟を決めた。
「あのね……。
……ごめんね、深沢くん……」
わたし、深沢くんをだましている。そんな気がした。
深沢くんの気持ちに、まだわたし、100%で答えられないのに。
ついうつむいたわたしに、少し間があいて、深沢くんの声が聞こえた。
「知ってるよ。わかってるから、大丈夫。
広瀬さんが今のところ、おれのこと、なんとも思ってないってこと」
「……深沢くん……?」
そんな深沢くんの言葉は、びっくりしてしまうくらい、あっけらかんとしたものだった。
「あの短歌を読めばわかるよ。誰か先輩のこと、好きだったんだなぁって。
だからそもそも、そんなに期待なんてしてない。
……ま、かといって諦めたくもなかったから、告ってみた。
まさかオーケーしてくれるなんて思ってなかったから、逆にチャンスもらったなって、おれとしてはすごく嬉しかったんだよ?
だから、気にしないで。できたらもうすこしだけ、チャンスくれると、うれしいかなって」
そう言って、さっきと同じようにぎゅっと目を細める深沢くん。
そんな彼の気持ちが、じんと胸に響いてきて、わたしは思わず彼にわからないように涙を拭った。
つい、ぽろりと、言葉がこぼれだした。
「……直接、会いたいな。深沢くんに」
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