野盗団

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「アワの国……亡くなってしまったんだな」  酒を一口飲んで、つぶやく。ちょっと酸っぱいな、これ。 「おお。シロ殿は、アワの国のことをご存じであったか」 「いや、だから『殿』は要らないって」  オウタンは、盃を片手に遠くを見た。 「昔、アワの王が、遠方の国に遠征に行くといってな、精鋭を引き連れて国を出た。残った跡取りが……、まあ、なんだ、ワンマン王のぼんくら息子だったわけだ。王に忠誠を誓った大臣が留守を守る(てい)で据えられていたわけだが、機は熟したとばかりにクーデターを起こした。跡取りがぼんくらでも、王の帰還を信じてぼんくら側につく奴もいて、国は一気に内乱となった。力で抑え込んでいたモノは、力がないと一気に瓦解するものなのだな。国は、バラバラになった。そのうち、遠征先で王が亡くなったという知らせが入り、俺は見切りをつけて国を出た。俺は国に忠誠を誓ったが、王やぼんくらや野心家の大臣に力を貸したかったわけじゃないからな」 「ふふっ。オウタンは根っからの武人なんだな」  褒めたわけではなかったが、オウタンは嬉しそうに笑った。 「シロ……も、なかなかの手練(てだ)れとお見受けしたが、どこぞの国に(つか)えておられたのか?」 「兵士として奉公したわけではないけど、近衛部隊長から指南を受けた」 「ほほう。そうであったか。なるほどなるほど」  得心(とくしん)がいったという風に、オウタンは頷いた。    オウタンの(つか)えていた国の王を消したのは自分だ、と言ったら、どんな顔をするだろう。運命は時々、奇跡のようなめぐりあわせを用意する。まぁ、アワは大きな国だったから、知らなかっただけで、これまでも残党と行き会っていた可能性はゼロではないが。
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