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崩れたレンガの端に腰かけて途方に暮れていると、背後に何者かの気配を感じた。やっぱりここにもいるのか。どこも大変なんだな、と思ったがその思惑に配慮してやる気は微塵もない。顔を覆っている黒い頭巾を緩めて、目だけ出した。……三人くらいか。もはや慣れ切ったルーチンワーク。額の裏側当たりでゆっくりと集中力を高める。
さて、と……。
「隙を狙うつもりなら失敗だな。こちらはもう気が付いてるぞ」
「だからどうだって言うんだ。やるこた一緒だ! 命が惜しくば在りもの全部置いて行け!」
成人男子の声。こんな世で無かったら、善良な農夫でもやっていたのかもしれないが、いたしかたない。背を向けたまま問う。
「武器と下履き、どっちが大事だ?」
「……はっ? 何ふざけたことを!」
「どっちも大事だ、こん畜生!」
「承知した」
振り向きざまに右手の人差し指を突き出す。全員こちらの動きに注視しているから、術が掛けやすいったらありゃしない。賊の動きを封じてから、人差し指の先をゆっくり自分の顔の前に持っていく。
全員の目が自分の目に注視したところで、発動。
ジュワッと音を立てて、賊の得物と衣服が白い光を放って蒸散していく。
賊どもは何が起きたのか分からず、一瞬の間を置いてから、悲鳴を上げて腰を抜かした。
「次は何を消そうか?」
賊のボスっぽい年かさの男をちらりと見下ろす。むき出しになった下半身は見ないようにする。賊の連中は戦意喪失しておたおたと起き上がり、倒けつ転びつ逃走していった。
後姿を見送りながら、浅い溜息をつく。拡散した白い光の玉は、しばらく辺りをふよふよと漂っているが、そのうち大気に消える。
どんな強面も、おしりは可愛いんだよなー。
「ん?」
岩陰にまだ人の気配がする。動く様子がないのでのぞき込むと、子どもが一人頭を抱えて蹲っていた。あれ? こいつも賊の一味なのか?
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