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青の民の集落は中州を中心に艀のような構造物を立て、その上に居住空間を設えてあった。いざというときには、係留ロープを外し、各々の艀をばらして船にするらしい。
クロガネ曰く、ここはあくまで住居区であり仕事をするための船を係留している場所は別にあるのだという。
集落の長の家に挨拶に行ったあと、クロガネの居住船で世話になることになった。クロガネは年老いた両親と一緒に暮らしていた。世話になる礼として、背嚢から薬草を取り出した。解熱剤、鎮痛剤、打ち身などに効く軟膏、安眠へといざなう薬草茶。ここへ来る旅の途中で、コガネと一緒に仕込んだヤツだ。
クロガネの母は、薬草茶の香りが気に入ったらしく、何の植物を配合しているのか知りたがったのでメモを書いて渡した。
「玄の国なんて、伝説か神話の世界のことかと思っていた」
クロガネが、驚きを隠せないといった表情でつぶやく。
「いや、現にそこから来たんだ。今もあるし、幻でもなんでもないぞ」
「シロは、その……『力』を持っているのか?」
「あるけど、あんまり実用的な力じゃない」
「モノを消しちゃえるんだ!」
コガネが横から嬉々として答える。
「消したっきりもとに戻せないからな。大したことはない」
「へぇ……」
クロガネは、煙に巻かれて釈然としない顔をしている。なんか役に立つ力を持っているとでも思ったのだったら申し訳ない。
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