青の民

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「そうそう、探し人の件だが、明日の昼には答えられると思う。それにしても……」  座りなおして正面でこちらを見る。わずかに見える警戒の色。 「どうやってここを探り当てた?」 「カリヤスと取引のあった国と所縁(ゆかり)のある者に聞いた。カリヤスは細工物の材料に朱の国の材料を用いていたとか。そのためには青の民の協力が必要だから、もとより青の民に伝手があったのだろうと。戦火を逃れて青の民のもとにいる可能性を示唆された」 「ほう……」  クロガネは目を細めた。 「して、カリヤスに直してもらいたいものというのは?」  背嚢(はいのう)の中から、ウコン染めの布に包んだ銀と螺鈿象嵌細工の時計を取り出して机に置いた。 「(いにしえ)の黄の国の職人の手なるものらしい。心臓は水晶の振動子。多分、落とした衝撃で内部の歯車が壊れたんだと思う。正確な時を刻めなくなった」 「これは……」    そこに居る自分以外の皆が、その細工の細やかさに息をのんだ。見てくれの繊細さに騙されてはいけない。内部構造は更に複雑で精緻で、美しい。 「……確かに、カリヤスにしか頼めなさそうな品だな」  クロガネがつぶやいた。 「シロ、ずっとこれ背負ってたの? 知らなかった」  コガネは視線を時計に向けたまま言う。  そうそう。ずっと背負ってたし、銀が曇らないように毎晩磨いてたんだぞ。妹からの大事な預かりものだからな。 「ありがとう。見せてもらってよかった。これで、カリヤスを説得できそうだ。実のところ、カリヤスは住んでいた街から焼け出されて以来、極端に人と接触することを恐れている。自分の居場所がわかったとなったら、再び姿をくらましたいと言い出してもおかしくない。せっかく、新たな工房を構えたというのに」 「よかった……。クロガネはカリヤスとの仲介者だったのだな」 「ああ。カリヤスは俺の船と取引をしていたのだ」    クロガネは白い歯を見せて笑った。
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