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細工職人
翌日の夕方、クロガネの操る小舟にコガネと一緒に乗り込んだ。時計を入れた背嚢を抱えて……。小舟はいったん沖の方へ出ると、大きく迂回して陸に引き返した。河口からは山陰に隠された方角に入江が開けていた。岸に幾艘もの船と家並が見える。仕事用の船を係留している場所というのは、ここだったのだ。
「ここへは、海側からしかたどり着けない。我々が沖に出られる船を係留する港だ。カリヤスのように戦火を避けて避難してきたが洋上には今一なじめない者らが、集落を作っている」
こんな場所があったとは……。これではいつまでたっても消息をあたれないわけだ。
桟橋に着くと、クロガネの後をついて町へ入っていった。比較的新しい家が多いのは、最近になって町の体を成したからなのだろう。
とある平屋に入っていく。
「カリヤス! シロ殿を連れてきたぞ」
工房には見たこともない道具類が壁一面に吊るされ、様々な旋盤や金床、固定具のついた作業台が所狭しと並んでいる。奥から、がっちりとした体格の小男がゆっくりと姿を現した。
眉間に皺を寄せ、警戒心を隠さない。怪訝そうにこちらを見て、視線をクロガネに戻す。
こりゃ、現物を見せないと話が始まらないな。
背嚢を下ろして、中から時計の包みを取り出し適当な作業台に置く。
「クロガネ殿から話は伺っていると思いますが、玄の民のシロと言います。カリヤス殿には、こちらの品を修理していただきたく、遥々やってまいりました」
包みをほどいて時計を取り出すと、カリヤスは目を見開いた。関節の節くれだった手を伸ばして時計を持ち上げる。正面を、後ろを、下をじっくり眺めて溜息をつく。
「これは……いかな匠の手によるものか」
「古の、黄の国の職人の手によるものと聞きました。今の玄には直せる職人はおりません。大陸一の細工師と名高いカリヤス殿になら、あるいはと」
「古の黄の国の職人か……。古の職人に出来て、今の職人に出来ないことはあるまい。これは、大変に興味深い仕事だ。どれほどかかるか見当もつかないが、是非とも、私に任せてくだされ」
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