細工職人

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 よかったー。引き受けてもらえた。これで、一つ肩の荷が下りた。 「修理代がどれほどかかるか見当もつきません。すぐ手に入る材料ばかりではないかもしれませんし。これが、足しになればよいのですが」  背嚢(はいのう)から金地金(インゴット)を取り出す。1つ、2つ……。積み上げていく度に、カリヤスとクロガネが目をむく。  えっーと、全部で15本。大体7㎏くらい?  背嚢(はいのう)がミミックじゃなかったらこんな重いもの持ち歩けなかったよ。  この背嚢の元の持ち主であった玄の民は、器物に魂を宿すことができる者だったらしい。らしいというのは、直接会ったわけではないから。中に入れたモノの重さも質量も、ミミック自身が引き受けてくれるから、背負う者はミミック本来の重さだけ担げばよいという親切設計。魂あるイキモノだから、素材の経年劣化は致し方ないが自己修復機能つきで長持ち。ただし、ミミック自身が「我持ち主」と決めた者にしか懐いてくれないという条件付き。懐く基準は誰にもわからない。 「カリヤス殿は、クロベニという者を憶えておられますか」 「おお、憶えているぞ。大剣の柄と鞘の意匠を頼まれた。長身で細身の体格なのに、信じられん腕力で大剣を振り回す御仁で印象に残っておる」 「彼の者から、カリヤス殿の話を聞きました」 「そうか。……今も御健在なのだな。結構なことだ」  あれ? そういえばコガネは?  作業場を見回すと、コガネがとある作業台に齧り付きで張り付いているのを見つけた。 「何を見てるんだ?」  のぞき込むと、その台の上には大小いくつもの卵が並べてあった。その殻にはレース編みのような繊細な透かし模様が彫り込まれている。カリヤスがひとつを手に取った。 「これは、精密ナイフとヤスリの精度を確かめるための試作だ。最初はアヒルの卵から始めて、今ではウズラもいける」 「すっげー……人の手で、こんなものも作れるんだ」  コガネは目を丸くして呟いた。 「職人というものは、意匠のセンスも必要だが、大方は手の感覚を養って技術力を上げていくものだ。最初は無理そうでも、何度もやっているうちにだんだんできるようになる。結局は、そこまで行く根気が続くかどうかだ」 「……ねぇ、シロ」  コガネがキラキラした瞳で見上げる。 「オレ、今夜ここに泊まらせてもらっていいかな? 親方の仕事を見せてもらいたい!」  えー? こっちはいいけど、カリヤスはどうかな?  と思って恐る恐るカリヤスの顔色を見たら、さっきの渋面はどこへやらというニコニコ顔でコガネを見ていた。このお方は、人嫌いっつーか、仕事大好きなんだな。
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