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イナの村ーーー数日前に訪れたことがある。ふた山越えた先の村だった。
村人が戻り、大分生活が立て直されていた。逃れて以降どれほど村に戻れないでいたのか分からないが、ほんの数日の距離でも方向感覚のわからない子どもの足で戻るのは難儀だったのだろう。知り合いが生き残って、戻っているとよいのだが……。
「何日か前、イナの村は通ってきた。村人も戻ってきていたぞ」
「え? ホント?」
コガネは目を見開いた。こんなキラキラした顔を見せられたら仕方がない。一度訪れたところはには戻らないルールにしていたけれど、いっちょ付き合ってやるとするか。とすると、当面の心配は、二人分の飯だな。
旅の空にいると、つくづく「消す能力」だけな自分が恨めしくなる。「食べ物が出せる能力」とか「無機物を食べられるようにする能力」とかの方が、実用的だ。以前、毒のある植物から毒だけ消したら食べられるか試してみたが、あれはアカン。味気ない草だけ残った。
来た道をコガネと一緒に引き返しながら、山の端まで行ったら小川があったことを思い出した。
「コガネ、釣りはできるか?」
「おうよ! まかして!」
コガネは力こぶを作って見せた。とりあえず、夕ご飯は安泰のようだ。
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