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コガネの手先の器用さは目を見張るものがあった。小川に着くと早速水辺の葦原に入り、水鳥の巣から羽毛をいくつか手に入れてきて、手渡した携帯用の裁縫道具から、縫い糸を器用に操り毛針をいくつかこしらえた。この針を使うと、これがまたよく釣れるのである。
感心して、つい軽く訊いてしまった。
「誰かに教わったのか?」
「父ちゃんから。……死んじまったけどな」
ぶっきらぼうに答えるコガネ。
「あ、いや、……すまない」
「いいんだ。別に。父ちゃんは妹が生まれてすぐ病気で死んだから、焼け出されたのとは関係ないし」
「コガネには妹がいるんだ」
「うん。モエギって言うんだ。俺より二つ下」
「へー。同じだな」
「シロにも妹いるのか?」
「双子の、な」
「ふうん」
ちょっと釣り糸を垂れただけで入れ食いで釣れてしまったので、半分はさばいて干しておいて、残りに軽く塩を振ってから焚火で焼くことにした。開いた魚に岩塩をすり下ろしてまぶしつけていると、コガネがやけに熱心に見ている。
「なんだ? 塩が珍しいのか?」
「その塊、塩なんだ……。おれ、白くてパラパラしたのしか見たことないから」
「ああ、これは岩塩と言うんだ。舐めてみるか?」
欠片を一つまみ手に載せると、コガネはペロリと舐めた。
「わ! しょっぱ! ホントだ塩だ」
「大概のもんは、塩味付ければ何とか食えるんだ。保存にも使えるしな」
「へぇ~。旅の知恵ってヤツ?」
「まぁな」
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