出会い

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出会い

 ここもダメか……。  草叢に埋もれた瓦礫の山を見て溜息をつく。  背嚢(はいのう)から地図を取り出して、バッテン印をつけた。  国を出てから、もうどれくらい経っただろう。たった一人の人を探す無謀な旅とは分かってはいたが、ここまで見つからないと生死すら怪しくなる。  千里眼の能力を持つ老賢者は「彼の者は健在」と言い、予知の能力を持つ老賢者は「いずれ会えよう」と占ったが……。 「『いずれ』って、いつだよ」    覚えず悪態が口をついた。  戦乱の爪痕は思った以上だった。旅商人が残してくれた地図を頼りに目につく集落を、それこそ虱潰しにあたっているが、その半数近くが廃墟と化していた。一帯を治めていた首長一族が離散して無法地帯になっていた地域もある。    初動で、しくったんだよな。    まず、目標と(たの)んだ街がなかった。自分が間違えたのかと思ったが、そうではなかった。かつての城塞都市、ヒエの国。交通の要所に職人街を抱えるそこそこ大きな街だったので、まさかと思ってはいたが、きれいさっぱり破壊しつくされていた。かつての住民が戻って再建しようという気が起きなくなるほどに……。そこで消息が途絶え、迷走が始まった。  生き残った住民たちは、どこへ逃れたのか……。  街道で行き会った旅商人や、再建の始まった集落で情報を求め、町の生き残りというニンゲンから話を聞き、らしい情報に振り回された挙句、結局何一つ分からず、虱潰し方式に変えることになった。これが、隠里的な隠遁の仕方をされていたら、それこそ探し出すのは無理な話だが、生業的に客がいないと成り立たない職人なので、そこそこ人がいる集落にはいるはずだし、外部と交渉がないことは、無いはず。最悪、あっちも移動してるのかもしれない。いや、だったらどこかに痕跡があるはずだ。    うーん。やっぱわからない。
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