あなたを愛してる

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「聞いてたとはいえ、今日はちょっとどきどきしたよ」 「だよなぁ、俺も妙な緊張感があったよ。もう何度も行ってるのに、同行者が違うってだけじゃなくてさ…」  貴将くんが夕飯の洗い物をしながら苦笑いをしている。私はその横で、すすいだ食器を拭いて片付けている。 「咲良はさ、ここの生活も慣れてきた?」 「うん、大分慣れたよ。慣れたというか…もう自分の家だと思って生活してるよ」 「そっか、良かった」  嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑ってくれるから、私も嬉しくなる。胸の奥がぎゅう、と締め付けられて、目の奥が熱くなる。 「貴将くんは、私が居る事に慣れた?」  不思議そうな顔をして私を見詰める。その後に目を細めて、口元を緩く弧を描く様に笑ってみせてくれた。 「俺は望んでた事だから。この部屋に咲良が居る事が嬉しくて仕様がないよ」  いつも優しくて思い遣りがあって、私を一番に考えてくれてる。私も貴将くんを一番にと思いながら行動はしてみるけど、貴将くんの方が一枚も二枚も上手でいつも私がおもてなしを受けている様な感じだった。それでも私にあまり気を遣わせない様にしてくれてるのも解る。ちゃんと家の中での私の仕事を与えてくれているし、こうやって同じ事をして分かち合おうとしてくれる。だから、余計にこの家は居心地が良いのだと思う。 「なんだかね、ずっと一緒に住んでるみたいだよね」 「確かに。こうやって傍に居る事が違和感ないもんな」 「……もしかして、…誰かと、一緒に暮らしたりとか、期間限定でも寝起きを共にした人とか居るの?」  聞いてはダメなラインを越えてしまった気がして、あ、と声が出てしまった。思わず貴将くんの方を気まずい気持ちで見てみるけど、貴将くんは至って普通の雰囲気だった。 「ん?居ないよ。はは、そこを疑ってくるか…。咲良が初めてだよ。前にも言ったけど、あまり人が来る事ないからさ。そういう考えにも至らなかったよ。どうした?何か気になる事あった?」 「ううん、ごめんね、変な事聞いて…えっと…慣れてるなぁって。スマートに私との生活をこなしてるから…経験済みなのかな、ってちょっと思っただけ」  貴将くんは目を丸くして私を見詰める。そしてゆっくりと表情を和らげて笑ってくれた。 「慣れてるって事はないけど…この家じゃないけど、親戚とかと、じーさんばーさんの家で正月や夏休みとか一緒に過ごしてたりしてたからかなぁ?皆でごちゃごちゃと入り混じってご飯の用意したり片付けたり…風呂入って雑魚寝して…ってそんな感じ。それ以外はあんまり他人と何かをする…とか長い時間を過ごす…とか、してないよ」 「じゃあ、貴将くんのそういう環境とかで、そういう風に見えるのかな。変な誤解はしたくはないんだけど…つい、自分に経験がないから…考えちゃった」 「意識してた訳じゃないけどさ、気付いたら咲良とだけだったよ。一緒に居られて何も負担はないし不満もないよ」  相変わらず貴将くんは笑顔で居てくれて、いつのまにか洗い物は片付いていた。手を引かれてソファに連れて来られ座らされた。 「慣れてきた時が心配…迷惑かけないように気を付けるね」 「そんな事言うと俺もだよ。気を付けて生活するのは相手が居るから当たり前だけどストレスにならない様にしよう?せっかく一緒に暮らし始めたんだし、これからの将来の事を考えると最初からぎすぎすしたくないからさ」  つい重く考えがちな私に、気持ちを和らげる様にそっと語り掛けてくれる。包み込む様に肩をそっと引き寄せられ、貴将くんの身体にくっつく。
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