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始まり、の日
「貴女、今年の運気は最高にいいね」
「え?」
友人達と一緒にご飯を食べた後の帰り道。細い路地が目に入り、ふ、と眺めるとそこに『占』の文字が見えた。
「占いだって!ちょっと寄ってみようよ」
友人の一人が声を上げる。今日は皆アルコールが入っているから、普段と少し違う雰囲気にすぐ捕らわれる。
「おっ、いいね!」
「しょーがないなー、行くか!」
「結局、みんな乗り気じゃん」
女4人で、その細い路地に入り込む。
元々歩いていた道も、表通りから1本入ったところだった。色んな店が点々と連なり、今日はどの店にする?って会話が聞こえそうな雰囲気の、物凄く賑やかではないが、仕事終わりに寄って飲んで食べて帰るなら、と候補にしたくなる通りだった。
そんな通りから入った路地。薄暗く、それこそ知る人ぞ知る、の様な雰囲気の。特別感ある路地だった。人と人が行き交うには少し狭い。
そういう路地にある店だから、きっと良く当たるのではないかと妙な期待を持ちつつ進む。
『占』の文字の看板の所まで来て、心がワクワクとする高揚感で友人達は浮足立っていた。
だけど、実は私だけ戸惑っていた。
だいたい占って貰う内容って、恋愛がメインな気がして。
私はそこが少し気になっていた。
「さ、なに言われても、今日は飲んでるし都合の悪い事だったら忘れよう!」
「いい事だけ覚えて実践しよ」
「本当にそれでいいのかな…」
「占いなんて信じるも信じないも…みたいなとこあるじゃん。やってみよ!」
そう皆で言いながら、占ってもらう順をじゃんけんで決めた。
幸い自分達の前には1人、女性が居るだけだった。
私は一番最後だったので、順番待ち用の椅子の一番最後に座って待つ事に。
「しかし、これ待ち時間と占ってもらう時間で、結構時間掛かるんじゃない?」
「そっか…だよね。じゃあ、二人ずつで帰ろっか」
「そうしよっか。ここで解散だね」
「今日は飲んじゃったから、週末はゆっくり休もう~」
そうして、皆が順番に占って貰っていき、二人の占いが終わり「じゃあ、週明けに」と手を振り合い、私としーちゃんだけになった。
「じゃ、先に行ってくるわ」
「うん」
しーちゃんは、高校からの友人で一番仲が良い。だから、この順番で実はほっとしている。
スマホでニュース記事などを見て時間を潰していると、しーちゃんが出てきた。
「終わったよ、咲良、行っておいで」
「ありがと、行ってきます」
しーちゃんに促され、占って貰うスペースへ足を踏み入れる。
そこは、いかにも、な雰囲気だったが、薄暗い訳ではなく、温かな照明で妙に安心出来る空間だった。
占い師に、椅子へ座るように手の仕草で促され、目の前の椅子に座る。
これまた座り易く、身体にフィットする椅子だった。
「お願いいたします」
「はい、よろしくね。生年月日と名前をフルネームで教えてくださいね」
丁寧な応対に緊張感もなくなる。生年月日と名前を伝えると、すぐに占いが始まった様だった。
「ん。……ん、ん、ん?……なるほど、いいね。凄くいい」
占い師が、しかめ面で唸り声を上げた後、顔がみるみる変化していく。
「なかなか、結構大変な恋愛をしてきてるよね…なんか妙な…なんだろ、変な作用を受けてる気がする」
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