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休みをこよなく愛する者にとって、学校ほど憂鬱なものはない。
週の始まりは特に。
少し空いた窓からは、シャキッとしろよといわんばかりの、ほどよく冷たいここちのよい風が吹いてくる。
窓際一番後ろの席は、非常に良い。
非常に良いが、憂鬱なものは憂鬱だ。
また長い長い一週間が始まるかと思うと、うんざりする。
はやく日曜日にならねぇかな。
そんなことを考えていると、
「ねぇ、シャーペンの芯ちょうだい?」
と、前の方から声をかけられた。
自分に話しかけていると理解するのにコンマ数秒の時間を要した後、動悸が激しくなったのを悟られないように、雑に詰め込まれた筆箱の中から青いプラスチック製品を探す。
そして、何事もないかのように、いや少しむすっとしたような態度で、「はい。」と、それを差し出した。
声が普段より低くなっているのを感じる。
別に不機嫌ではない。ただ思春期男子特有のに、女子との会話に照れと嬉しさが入り混じって逆の対応をしてしまっただけである。
特にクラスきっての人気者、奥出さんから声をかけられたのなら、こうなってもしかたがない。
「ありがとう!」
そんな僕の内情を知る由もなく、彼女は満面の笑みでそれを受け取った。
その時、かすれるように彼女の肌に触れ、羞恥心が湧き出てくる。
こんな他愛のないことで、そっけない反応をし、うぶな感情が現れてしまう自分が嫌になる。
この席になったのは、先週の金曜日。
教師の突然の申し出で、席替えとなったのだ。
どこでもいいよななんて会話しながら、少し期待をしていた。
彼女の席の近くになることを。
彼女と席が近かったことは今まで一度もなかった。
人気者である彼女に対し、人との会話を得意としない僕はもちろん、話したことすらなかった。
だからこそ、今のちょっとしたやりとりがすごく特別なように感じたのと同時に、気持ちが悪いように思われていないかと気になった。
そもそも、彼女は僕の名前を知っているのか。
なぜ、僕にシャー芯を欲しがったのか。
いやそれはシャー芯がなかっただけだろ。
などと、彼女に関する考えが頭を離れない。
自分でも気づいている。とても気持ちが悪いと。
そして、恐らく自分には全く関心がないことも。
気が付くと、彼女の周りを、数人の女子が囲んでいた。
相変わらずの人気だな。
すると、ある同級生女子から思いがけない言葉が飛び込んだ。
「そういえば、気になっている男にシャー芯もらう計画どうなった?」
「そうそう。今日はそれをききたかったんだよ。」
「ずっと、好きな人についてはぐらかして。はやく白状しなさいよ。」
すると、彼女は少し、いやかなり潤んだ眼をしながら、とても恥ずかしそうにこちらの様子をうかがってきた。
目と目があう。
月曜日もあんがい悪くないかもしれない。
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