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ー198x年ー
春の優しい風が、桜の花びらを運んで、教室の中へ吹いてくる。淡い花弁が生徒達の肩や、机の上、ノーや教科書の上へ降り注いでいるかのようだ。もうずっと前から、太古の昔から花は教室へ降り注いでいるかのような、そんな錯覚を覚えるくらい、時は静かに流れていた。
白い陽射しが眩しくて、勇太はノートに顔伏せて微睡んだ。薄く眼を開けると、彼は光の中のどこかへ潜むクラスメイトの少年の姿を捜す。
まただ。またユキがいない。
すぐ側にいるようで、いつも姿が見えない。ユキはなかなか捕まえることのできない、白い綿毛のように、ふわふわと教室の中を漂流している。
それは桜の花びらにも似ていた。いずことも知れず、クルクルと舞い、捕らえようとすると、手をそっとすり抜けて行ってしまう。
ユキは春の精霊のようだ。
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