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午後の授業の合間、ツベルクリンの反応の注射のために、四年二組の生徒たちは、列をなして保健室へ向かった。
小学校の四年生という年齢になっても、勇太は注射をされるのが大嫌いだった。あのアルコール消毒液のツンとした匂いが、辺りを異世界へと変貌させ、前の生徒たちの列が減るにつれて緊張し、鼓動が激しくなるのだ。
保健室の不自然なまでの白い空間の中、勇太はアルコールに酔い、軽い眩暈を覚えるのだ。注射などほんの一瞬、ちくっと痛むだけなのに、気の小さな勇太は、すっかりすくみあがっていた。
気が付くと、ユキが細く白い腕を差し伸べて、注射を受ける姿が眼に映った。明るい陽射しに照らし出された彼の腕は、日に溶ける雪のように溶けてしまいそうなほど白く、その皮膚の真上で注射器の細い針が、銀色に鈍く光っていた。
怖いはずなのに、なぜか勇太はそこから眼を離すことができなかった。ユキの腕の中へ針が入っても、彼は凝視し続けた。背中に悪寒が走る。本当は眼を閉じたかったのにと、想いながら勇太の足元はすでに凍り付いていた。
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