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◇
最初、背中から誰かが抱きしめたとき、きっと夢だと思った。
なんで突然。そう思った。
「智司は本当は私が好きなんでしょう?」
その言葉の先は、それまでの俺にとって開けてはいけないものだった。ずっと心の奥につもり続けたぐちゃぐちゃの感情は『秘密』に押し込めてきた。それはもう決壊しそうで、そして実際目の端っこから少し決壊していたものだ。
振り返れば梨穂子の瞳は俺をじっと睨みつけていた。その『秘密』の返却を求めるように。そしてその視線が『秘密』の鍵のように、ガチャリと僕の機械の心臓は外れ落ちたのを感じた。
「梨穂子。俺は何もしなかった」
「知ってる。でも、私を好きなんでしょう?」
「……好きだ」
「私も好き。多分最初に会ったときから。だから最初から始めましょう」
Fin
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