Episode,1

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Episode,1

夜行バスに身を委ねていた。微かに聞こえる走行音は気にならなかったが、湿気防止か、僅か数センチ開けられた窓からは、絶えず冷気が入ってくるので、毛布替わりに上着を肩まで掛け直した。 防犯対策なのかブラックシートが貼付されていて、景色は全く見えない。直射日光が当たる昼間ならば、違和感に気付いたかもしれない。 バス内は真ん中に通路があり、左右に2席ずつあるスペースをひとりで使用出来るようになっており、前側を男性が、後側を女性が使用するように、予め座席を配置されていた。 窓側に置いたキャリーカートとリュックサック。重装備のわたしは目立たないように一番後ろの席を座った。 長時間のバス旅をほぼ睡眠にあてた。ふと話し声で目が覚めると、無意識に聞き耳を立てていた。 「こんなの余裕だよな。」 「ああ。大袈裟に書いてるだけじゃん。」 「キャンパーのわたしたちには日常だし。」 「ネットにアップ出来ないのが残念よね。」 爆笑の渦がバス内に響く。いつの間にか室内灯も点いている。予定通り5時に到着みたい。上着を着て、スリッパから防水ブーツに履き替えた。 「煩い。」 ピタッと笑い声が止まる。 「るせぇ。もう到着だろ。」 「到着するまで静かに出来ないのか。」 「はいはい。」 「あっ!アンタ有名なソロキャンパーのマサだろう?」 ええっ?マジで? マサさんと云えばソロキャンパーの端くれとしたら、神のような存在なんだけどーーー。 「なっさけな。低迷してるからって荒金稼ぎ?」 「生活には変えられないっしょ!」 「だって一週間ソロキャンすれば100万だよ。」 「だよねー。あたしでもチャレするし。」 再び爆笑する男女4人組に対して、「視聴数は固定ファンの人数だと思うけど?」と胸中で反論してみる。何せマサさんのチャンネル登録数は約10万人いるんだもん。 4人組もパッと見、重装備してるけど、中身が重要だよねー。(辛辣になるのはファン心理デス。) 「知らない土地でのソロキャンに魅力を感じただけだ。」 「まぁ〜せいぜい頑張ろうや?」 マサさんのおかげで静かになった。
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