オンライン感染

2/6
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
 実のところ、私も一昨年あたりまではあっちこっちに旅行に行くタイプの人間だったのである。特に、オカルト系スポットを巡るのが大好きだったのだ。別に、あからさまに侵入禁止となっているところにこっそり忍び込んで写真を撮るとか、そういう迷惑行為に及ぶつもりはない。ただちょっといわくつきのトンネルを覗きに行ったりとか、禁域とされている場所の入口を撮影したりといった程度のことである。現在はそれもできないので、もっぱら旅行も“オンライン”限定になっていた。ネットでそういったスポットの写真や解説を見て旅行した気分になっているというわけである。 ――オンライン観光も楽しいけど。楽しいけどさー。やっぱ物足りないよね。リアルの音も空気も臭いもないんだもの。  オカルト系の動画のサムネイルをずらずらと並べていた時、ふと目に留まった動画があった。人気ヨウチューバー“ピッカリ課長”の動画である。いつも頭に豆電球のような被り物をつけて出演する、エセ大阪弁が特徴の愉快なおじさんヨウチューバーだった。動画の編集技術が高く、喋りも面白いので若い子にも大人気の動画投稿者である。  サムネイルはいつも、そんなピッカリ課長のドアップと一緒に動画タイトルがででーんと表示されているもので統一されていた。目についたのは、その一番最新で投稿された動画である。その名も。 「“【悲報】ホラーさん、オンライン感染する模様”……?なんじゃそりゃ」  意味がわからん、と思いつつ動画をクリックする。投稿されたのは昨夜だというのに、閲覧数は既に十万を超えていた。  ヨウチューブ動画の良いところは、基本的にどの動画も無料で閲覧できるということではないだろうか。自分が好きな動画を、時間に縛られずいつでも見ることができる。せいぜい対価になるのは一部の広告閲覧くらい。投稿者側も金銭を要求してくることはなく、“面白かったら高評価、チャンネル登録お願いします!”と言ってくるのみである。そして閲覧側は、特にチャンネル登録や高評価可能な人数に制限がないし、やったところでデメリットも何もない。気軽に閲覧・登録などができるというのが最大の強みだろう。  勿論、そんな環境下だからといって人気の動画投稿者になるというのは並大抵のことではない。数多の投稿者がそれで食っていくことを夢見て動画を投稿していくが、人気を博すことができるのはその中でもほんの一握りの存在のみ。広告収入で食べていくには、それこそ何十万、何百万以上の再生回数を稼がないといけないが、いくら無料でもそこまで見て貰うのはけして簡単なことではないのだ。ピッカリ課長は違法行為やマナー違反をすることもなく、きっちりそれが可能な再生回数を稼ぐことができている、いわば数少ない動画投稿者の勝ち組の一人なのであった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!