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『知ってしまうことで怖いことが起きる怪談というのは他にもあります。有名どころで言うと、猿夢なんかがそうなんとちゃいますやろか。知ってしまうことで、恐ろしい夢を見て猿に殺されてまう……というアレやね。あれは知ることで、怪異が実際に自分の前に現れるというものですが。今回の少年の話はオバケが目の前に現れるとかやなくて、“知ってしまうと自殺してしまう”というものなんです。つまり、自分で自殺しようとしなければなんも問題ないんです。実際自分はこの話知って一週間過ぎてますけど、未だこんなかんじでピンピンしてまっせ!むしろ、フライドポテトと特大エビフライをドカ食いしすぎてまた三キロ太ってしまいました!』
「ははは、フライドポテトとエビフライはやばいってー!」
いや笑い話ではないか、と私も思わず自分のお腹に視線を落とす。ステイホームすることが増えた結果、明らかに毎日の運動量が足りていない。女性にしてはとにかく食べる方なので、このままでは体重が増える一方なのは明白だった。というか、最近怖くて体重計にまったく乗っていない。これはまずい。
『自分がどちらかというと怖いと思うのは、こんな話がを作ってしまう人間の心理の方やと思います。ようするに、この話を作ったお人は、“怪談を聞いた人間が不幸になったり、大騒ぎになったら面白い”って思ったってことやろ?……正直自分、どんな幽霊よりもこんなこと考える人間の方が恐ろしいですわ』
彼は自分の頭に触れると、被り物のボタンを押した。瞬間、ピッカー!と豆電球が点灯する。自分の動画の最後にこの動画を点灯させるのが毎回の恒例らしい。
『結論!……みんなステイホームでストレスたまっとると思う!私も同じです!ほんまはもっと遊びに行きたいしお酒も飲みたいし外食もしたい!それができないの辛いわーって毎日思っとります。でも、だからって人を傷つけるようなやり方をしてストレス発散したり、人の不幸を望むようなことをしてはあきまへん。私も毎日、みんなに楽しんでもらえるような動画づくり頑張るさかい、みんなもなるべく身近なところで楽しいこと探して、明るく過ごしてほしいと思います。以上!ピッカリ課長でしたー!』
うーん、と私は動画の再生画面を閉じて伸びをする。良い話だなとは思ったが、思ったほど今回は面白い内容ではなかった。彼も叩かれないように、今は刺激的すぎる動画は控えているのかもしれない。人気ヨウチューバーなら尚更、少し発言を失敗しただけで袋叩きに合うことも珍しくないからである。実に難儀な話だ。
――まあ確かに。ストレス貯めてるからって、人を攻撃するような言動とか、人に迷惑かけていいなんてことにはならんよね。私も反省しないと。
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