オンライン感染

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 ネットニュースの画面に切り替えて、私は立ち上がった。そろそろお昼の時間だ。ニュースでも見ながらまったりランチでも食べようと決める。冷凍庫を覗くが、残念ながらお気に入りの冷凍パスタは切れてしまっているようだ。そういえば、先日最後の一つを食べきってしまったのを忘れていた。  カップラーメンはあるだろうか。冷凍庫を閉じて、納戸の方へと向かう。 ――ここもぐっちゃぐちゃだ。掃除しないとなあ。  カップめんが入った箱を探していると、ふと荷造り用のビニール紐が目に入り、なんとなく手に取った。さっきのピッカリ課長を思い出して思わず笑ってしまう。ビニールテープじゃなくて、紐を使った方が絶対輪っかも作りやすいし頑丈だろうに、彼は家に紐がなかったのだろうか。あるいは、近所にたまたま売っていなかったのかもしれない。  自分はもっと上手に輪っかを作れるぞ、と思いつつビニール紐を束ごと取り出し、適当な長さで切った。丸く輪っかを作ろうと思ったところで気づく。そういえば、首つりロープというものは輪っかだけ作っても意味がないのではないか。なんせ、どっかにぶら下げなければ意味をなさないのだから。  我が家だったらカーテンレールにぶら下げるのが一番簡単だろうか、と思う。ソファーの上に立ってカーテンレールに端っこを通すと、そのまま二股になった両方の先端を握ってしっかりと結び直す。完全な輪っかになっていなくても、ここに首を引っかけるだけで首つりとしては成り立ちそうな気がする。 ――問題は、このカーテンレールが私の体重に耐えられれるかどうかだよなー。最近太っちゃったし。  まあ、壊れたら壊れたで問題ないか。私は鼻歌を歌いながら、しっかり結んだビニール紐に首をくぐらせた。おなかはすいていたが、なんかもうそれもどうでも良いかなという気がしている。吐いてしまったら勿体ないことになってしまうし、床も汚してしまいそうだ。  さあ実験。足場にしたソファーから飛び降りる直前、私はさっき自分がつけたパソコンの画面を見た。ネットニュースが速報を伝えている。大きな文字。ああ、なんて書いてあるのだろう。 『速報。人気ヨウチューバーのピッカリ課長、自宅で自殺。』  何かが、頭の隅に引っかかった気がした。けれどそれは、私の足を止めるには至らないほどのものだった。  ああ、自分はさっきまで、何を考えていたのだろうか。  小さな疑問をよそに、見えない手に背中を押され――私は死地へとダイブしたのだった。
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