ハッピー・トゥモロー

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ハッピー・トゥモロー

 人が不幸になったり、思い悩んで苦しむ様を見るのが大好きだった。理由は単純明快、“死神”になる前の私がそうだったからである。  かつての私が、男であったか女であったのかはよく覚えていない。どこの国の人間で、果たしてどんな名前であったのかも。確かなことは、人より少し美しい見目であったせいで貴族の奴隷にされ、一生娼婦よりも酷い扱いを受けて死んでいったということだけである。そのおかげで、死んだ私の魂は天国にも地獄にも行かず、全くべつのものとして生まれ変わる結果になったのだった。  つまり、人を不幸にして楽しみ、その命を弄ぶ死神。  人間という存在そのものが大嫌いになっていた私には実にお似合いであったことだろう。真っ黒な長い髪を靡かせ、猫のような金色の眼を光らせ、私は適当に選んだ人間の元に舞い降りるのである。そして言うのだ、お前の命はあと三日で尽きるぞ――と。  しかし、ただ最期を宣告するだけではつまらない。だから私は、そんな連中にこんな提案をしていやるのだ。 『その代り、何でも一つあなたの願いを叶えて差し上げましょう。命と引き換えに叶えたい願い、あなたにはありますか?』  勿論、そんなものほぼリップサービスだ。それを叶えなければいけない義務など自分にあるはずもないから大抵すっぽかすことになる。それでも、自分が人間ではないと知った者達は私に縋りついて願うのである。多くは二つに一つだ。つまり、そんなことはどうでもいいから死にたくないんだと命乞いしてくるか――命と引き換えに復讐を果たして欲しいと願うか、だ。  人間とは滑稽なものだ。命がなくなってもいいから、誰かを壊したり不幸にしたいと願うだなんて。 ――人間はやっぱり醜い!汚い!壊されても踏みつぶされても当然の存在!ああなんて愉快だ……!  今夜、自分が訪れることにしたのは、ある男性アイドルの元だった。  名前はルージュ・フローライト。  黒髪紫眼の、十七歳の少年だった。誰もが眼を引く美貌と圧倒的歌唱力、カリスマ性を備えた彼は、その国の国民的アイドルとして絶対の地位を築いていたのである。まさに頂点、ありとあらゆる名誉を手に入れたその彼が、突然全てを失うと分かった時どんな顔をするのか見てみたかったのが最大の理由だった。 「こんにちは、ルージュ君」 「!?」
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