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「はぁ。訴状にあった『境の樺の木』って言うのが見当たらないのですが、どういうことなんでしょう?」
タンバとヤナギが顔を見合わせる。
「昔、互いが隣接地同士で開拓し始めた時、ここら一帯は林だったんじゃ」
「そこを少しずつ切り開いて畑を広げていった。で、お互いの境目にあたるところに樺の木があったんだが……」
「日影ができるし邪魔なんで、ある年切り倒したんじゃ」
「それでも切り株は残していたのだが、根をはってるもんで耕すのに困って掘り返したんさね」
「んで、切り株があったあたりを境目にしようって話し合ったんじゃがな、お互いここだと思った場所が一致しない」
「そんなわけで、毎年境目が動く羽目になった」
「でも、まぁわしらも年だしなぁ。次の世代に畑を譲ろうと思ったのじゃが、毎年境目を争って作付けする状況まで引き継がせるのはどうかと思うての」
で、正式な境目を決めるのに仲介しろってことか?
ふむふむと頷いて先を促す。
「樺の木は、あすこの山の杉の木とこっちの丘の一番高いトウヒを結んだ線上にあったんじゃ。間違いない」
「いやいや、トウヒはそうじゃが、杉じゃのうてそこのマツじゃろう」
「いいや! 杉じゃった。お前の勘違いじゃ」
「杉とマツの区別もつかんのか! 絶対にマツじゃ。近頃ボケてきたのかと思ったが、目もアカンことになっとるようじゃな」
「お前の耳よりゃマシじゃわい。このおいぼれめ!」
はぁ? なんてこと……?
そもそもの境界線自体が不明になっちゃってるんじゃないの。
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