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「じゃぁ、樺の木が実際どこにあったのか分かればいいんですよね?」
「んん?」
「それはそうじゃが……」
「ここを開墾した時、最後に残った樺の木があった時間まで戻せば分かりますよね」
「それができるんなら……いや、だが、そんなこと無理……」
いきなり挙動不審になった爺どもを尻目に、麦畑に向き直る。
何年前まで戻せばいいか分からないけど、土地の記憶を頼りに巻き戻せばきっとわかるはず。両手を麦畑にかざして神経集中!
時間よ、戻れ!
麦秋の麦畑がざわりと音を立てる。
頭を垂れた麦の穂がみるみる立ちあがり緑を取り戻す。
やがて緑の株が次第に縮み、雪に覆われ……。
爺どもが呆気に取られて立ち尽くす。一年の巻き戻しごとに畑の範囲が少しずつ縮小していく。今立っている場所より奥へ奥へと、畑の位置が遠ざかっていく。
そして、樺の木は……かつての麦畑の隅っこの方に鎮座していた。
樺の木を中心に、蝶々が羽を広げたように小さな麦畑が広がっている。
爺どもは、へなへなと座り込んだ。
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