樺の木

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 樺の木があったのって、どこって言ってましたっけ? 全っ然違うとこに生えてるんですけどっ……ていうか。 「ああああああ!」  やってしまいました!   正式な手続きを踏まずに、やってしまいました私。  サーッと血の気が引いて行った。頭を抱えてあわあわしながら狼狽えていると、後から声がした。 「どうせ、そんなことだろうと思った。ワシはいいと思うぞ。業突く張りの欲のつっぱらかった爺どもにはいい薬だ」 「え?」   振り返ると、シロガネが手を腰にして立っていた。かつてクロベニと一緒に私たち双子姉妹の護衛をした変化(へんげ)の能力を持つ玄の民だ。 「え? ええ? なぜ? どうしてここに?」 「何言ってるんだ。お前を乗せてここまで来てやったのに」  は? ここまで乗ってきたあの馬、……シロガネだったの? 「可愛い秘蔵っ子の初仕事。何があるか分からないのに、たった独りで送り出すわけが無かろう。我々はそこまで鬼ではないぞ」 「えー……」  だからってそんな隠密にしなくてもよいのに。  ビックリしたぁ、もう。私も腰ぬかすかと思ったわ。 「ハイシロって、……あの『時を動かす』ハイシロ様だったんじゃなぁ」 「いやぁ、わしら、失礼なことを……」  爺二人は、なんだか急にしおらしくなった。  あら、私って有名人だったんだ。 「わしらも互いに意固地になりすぎたんじゃぁ」 「訴状は棄却する。和解したことにしてくだされ」 「いいんですか? それで」  ついさっきまで唾飛ばす勢いで口喧嘩してたのに、なんという変わりよう。 「樺の木を見て思い出したんじゃ。あの当時の開墾作業は辛くてなぁ」 「互いに励ましあいながら、ここら一帯をを麦の黄金で満たすんじゃと頑張っておった」 「いつの間にやら競い合って、負けん気のあまりいがみ合っておったのじゃな」 「もう、どっちの畑と争うのはナンセンスじゃ」 「ともに働き、出来高を分け合うとしよう」 「そうじゃな。そうしよう」  爺二人、手を握って向き合ったかと思うと、ヒシッと抱き合っている。  なんだ、結局仲良しなんだ。  解決、で良いのかしら。でもこれ、なんて報告したらいいのかな。
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