森の泉

1/6

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ

森の泉

 とりあえず、報告書という名の反省文を書いたら、ちょこっと頭を冷やしなさいという謹慎処分を受けた。  久しぶりに何もない日々を与えられてしまった。いつもと違う昼近い時間帯に最奥の間に行ってみる。天窓から光を得た夢見草は、やはりどこか勢いを失った古木然として佇んでいた。幹をなでつつ声をかける。 「いつもより早い時間に来られたよ。これから泉の水をくんでくるからね」  大き目のミルクピッチャーを片手に、最奥の間から裏の森へ出る。この森の奥に、冬になると水の精霊が休みに来る泉があるのだ。夢見草はこの泉の水を好む。ヒトでいうところのお酒みたいなものらしい。ツキシロが旅に出て以降、夢見草のお世話係は私だ。ツキシロが若木を持って戻ってくるまでは、大事に大事に今の木を永らえさせなければならない。  うっそうとした森の中を進み、ようやっと泉までたどり着く。復路は重いピッチャーを抱えていかなければならないので、一旦ここで小休止。  泉のほとりにある岩の上に座る。腰に下げたポーチから砂糖玉を取り出して口に放り込もうとしたら、目測を誤り、頬に跳ね返って泉に落ちた。  あらま、失敗。  次の砂糖玉をポーチから取り出そうとしたとき、泉の底から何かが浮かび上がってくるのに気が付いた。 「?」  茫然として見つめていると、豊かな青い髪の女の子が、泉からひょっこり顔を出した。 「お願い事は、なあに?」 「へ?」    私は、女の子を見返して、間の抜けた返事を返してしまった。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加