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「すみません! あともうちょっとですっ」
「さっきもそのセリフを聞いたぞ」
振り返るとクロベニが腕を組んで立っていた。近衛兵隊長改め、今は執行部司法局にいて、実質上司にあたる。ここは事務方であって軍隊じゃないのに、その指導はビッシビシに厳しい。うん、これはきっと私に早く一人前になってほしいという愛よ。そう思って耐えている。
「まぁ、いい。昨日提出してもらった調書だがな、確認した。……途中、寝てたろ」
「はい? そんな意味不明な個所がありましたか?」
「頭を使って書いた文章とは思えない」
グサッと胸をえぐるお言葉!
「書き直しを命じる」
「はぁ……」
「この類の書類はこの先何百年も残るんだからな。不備があってはいけない」
「了解しました」
しぶしぶと突き返された書類を受け取る。確か、畑の境界線で争っている当事者同士の言い分をまとめた書類だった。内容を改めたら、赤いインクでバリバリに校正が入っていて目眩がした。
「いい加減、公文書の専門用語に慣れよ。これでは作文だ。小説家を雇った覚えはないぞ」
「はーい」
踵を返してクロベニが退室した。近衛兵は卒業したのに相変わらずの黒づくめだ。厭味ったらしい言い回しをしなければ、苦み走ったカッコいいオジサマなんだけどな。
「ん?」
扉の陰にまだ誰かいるような気がして、席を立って覗いてみた。
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