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ウツギが案内してくれた居酒屋は、ちょっとした隠れ家的な佇まいで全室個室ってところがお高そうな雰囲気。貸し借り無しの割り勘ってことで、事前に話は付けてある。
「すごーい。こんないい雰囲気のお店、知ってるなんて」
尊敬のまなざしでウツギを見ると、くいっと片方の眉をあげてドヤ顔された。先輩の余裕というやつなのかと思いきや、「全室個室」の意味が後で分かる。
「はーい、お疲れ様ぁ」
鮮やかなピンクのベリー酒が入ったグラスをあわせる。わずかに発泡していてオシャレだし、フルーティーな香りが最高。料理も美味しいし、どんどんお酒が進んじゃう。
はー、幸せーと思いながら、鶏肉の足をモグモグしていたら、なんだかウツギの様子がおかしい……。お酒のグラスをくるくる回しながら目が座ってきた。
「今さ、抱えてる案件なんだけど。ほんっと面倒くさいのよねー」
お、愚痴か?
そういえば、今日の仕事で気持ちが萎えたとか言ってた気がする。
「玄の民と緑の民の夫婦の調停なんだけどさー、姑がしゃしゃってきてまぜっかえすもんだから、もー、やりにくいったら」
「ふうん……。どっちが玄の民なの?」
「夫の方よ。子どもが欲しいから緑の民のお嫁さんを迎えたらしいんだけどさ、姑さんがめっちゃプレッシャー掛けるもんだから、お嫁さん参っちゃって国に帰りたいって言いだしちゃって……」
「あらま、かわいそうに」
「先日、お嫁さんの方の個別聴取したんだけど、まー、えげつない話でさぁ」
ここでウツギ、グラスに残った酒をあおる。デキャンタを引き寄せて手酌し始めた。
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