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樺の木
先日、クロベニに突き返された調書が通り、本日は、この仕事に就いて初の現場見分である。係争者互いの言い分を調書でまとめた後、実態はどうなのか争いの元になっている現場に行って争点の裏付けをする仕事だ。
現場は、城壁の外側、郊外も郊外。馬を借りて行くほどの距離だ。訴状を出したのはタンバとヤナギというお互い入植者三世。麦畑の境がどうこうと、結構長い期間もめているらしい。
城壁を出て山を下り、小川沿いを行って、ようやく現場に着いた。一面の麦畑。まっ平。目印になるものは、何もない。何を頼りに境と決めているのだろう。
茫然と見回していると、係争者本人たちが到着した。どっちも同じくらいの年かさの初老の男だ。馬を降りて話しかけた。
「王宮から現場見分にまいりました。ハイシロと言います。訴状は読んだんですが、えっと、今現在、どこからどこまでがタンバさんとこで、どこからどこまでがヤナギさんとこなんですか?」
「わしがタンバじゃ。今年の境目は、ほれ、畑の中ほどに赤いリボンのついた竿が立っとるじゃろ。あれじゃ」
赤茶色のスカーフを巻いたてっぺん禿げの男が、畑を指さしながら説明した。
「『今年は』って、どういうことですか?」
今度は、青い帽子を斜に被った髭モジャ……こっちがヤナギか……が答える。
「作付け時になると、自分とこの作業小屋から順に麦の種を撒いて行って、今年ぶつかったところがそこじゃったんじゃ」
陣取り合戦? 毎年? それは大変だ。
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