黒鬼

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黒鬼

 つまんないんですけど。  書類の山に埋もれて溜息をつく。  とりあえず、目を通した書類には印章を押した。  ツキシロ、今どこら辺に居るのかなぁ。独りになって超絶暇になってしまった。プラプラしてるのも何なので、なんかやることないかと老賢者たちに聞いたらば、執行部司法局で働けと言われたのだった。  数多の声を聴き分ける聞き耳の能力を持つ老賢者に「大切な仕事だ」と言われ、人の心をよむさとりの能力を持つ老賢者には「楽しい仕事だぞ」と言われた。 「どこが楽しいのやら……」  覚えず悪態が口をついた。  玄の国は、数人の老賢者たちによる統治を行っている。老賢者たちが、立法であり司法の一部を担っている。その下に、いわゆる行政機関としての執行部がある。執行部には財政や防衛や国交担当や、なんやかやある中で老賢者の司法権を補佐執行する部門として司法局がある。民の揉め事を調整するお仕事と言えば聞こえはいいが、実質何でも屋だ。  あんまり難しくない仕事をください、って言ったらこれなんだもん。  まず、法律とか政治のこととかよく解らない。こんなこと言ったら、教育係のお兄様お姉様方に叱られそうだけど、王宮に来てこのかた、詰め込まれた知識は膨大なんだよ。私たちを王宮に引き込んだ時点で、将来どこかの部署に突っ込もうって腹だったからなのは理解できる。何が得意かなんて最初から分からないからね。でもさ、ツキシロなんて、最初から「勉強より体動かす方が好き」だなんて開き直っちゃったもんだから、余計にこっちにしわ寄せという名の期待がきてしまったのは勘弁だわ。学力については、だいたい一緒なのにね。差があるとすると、単調作業に耐えられるかどうかってことかなぁ。ツキシロってば、裁縫とか滅茶苦茶苦手だったもん。  あー、だから私がこんな単調作業やらされてんのか。  至急のサインがついていて、今日中に片づけなければならないらしい書類がまだこんなにある。これ、みーんな、民からの陳情書とか訴状とかだ。内容を読んで、解決の糸口になりそうな部署に見当をつけ、仕分けして送らなくてはいけない。それにしても、いい加減、目が疲れたー。伸びをしていたら、背後に気配がした。  ヤバい。お目付け役が来たかも……。
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