これは金時計だがや!

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 それから2年近く経った師走の或る日、幸丸君はアパートの部屋で遊んでいますと、キャビネットの上に置いてある腕時計が目に留まりました。好奇心旺盛な年ごろですから手に取ってみますと、動いているかと思いきや止まっていますので、ははあん、これはガラクタだ、だから僕の自由にして良い物だがやと思い、自分の力で宝物にしようと或る工夫を施しました。  そこへトイレで長いこと踏ん張っていたお父さんがやってきますと、幸丸君は喜び勇んでお父さんに例の腕時計を差し出しました。 「これ見てみやあ!金時計になったがや!」  見ると黄色のマジックペンで塗りつぶしてあります。お父さんは息子より腕時計が大事だったのでしょうか、「あーあーあ、わややわ!とろ臭いことをして!このたわけが!」と怒鳴る傍から幸丸君の頭に拳骨を食らわしました。  当然、幸丸君は堪ったものではなく、いってえ!と叫んだ途端、決壊寸前のダムみたいに目頭と目尻に涙が溜まり溢れそうになりました。 「何でこんなたわけたことをした?!」 「だって、こわけとるがや!」 「こわけとるんじゃないがや!電池が()-なっとるだけだがや!」  ああ、そうなのかと幸丸君は思ったものの喜んでもらえると思ってやったことでしたので怒られることに納得がいきません。  そもそも年端も行かぬ我が子の過ちを弁解の余地なしと叱り飛ばすのではなく優しく注意できないお父さんの度量の小ささに問題があるのです。お陰で生まれて初めて嫌な嫌な思いをした幸丸君でしたが、自分が黄色に塗った腕時計をおねだりしてお父さんから貰い受けることに成功しました。  ですから幸丸君は儲かったがや!儲かったがや!と大はしゃぎしながら黄色に塗った腕時計を友達に見せびらかそうと皆が遊んでいる小学校へ行きました。  すると、子供の目にはそう見えるからでしょうか、皆、幸丸君が差し出した腕時計を見て口々にうわあ!すげー!金時計だがや!金時計だがや!なぞと宝物を見つけたように大騒ぎするではありませんか!  ですから幸丸君は得意満面になってやっぱりこれは金時計だがや!本物の金時計だがや!と心の中で叫んでとても嬉しくなりました。更に幸丸君は心の中でこう叫びました。 「どっちがたわけだよ!」
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