45人が本棚に入れています
本棚に追加
聾 啞 者 (ろうあしゃ)の少女
後に事務所の人間に電話で確認すると、今日のみかんは3軒はしごで仕事をするということだった。
後部座席に座るみかんは、発車した途端、ひと言も話さなくなった。
彼女は普段から仕事の不安と不満を口にすることが多いため、この日も不安でいっぱいなのかもしれない。
「酔ってませんか?」
スバルはみかんのあらゆる体調を気遣ってそう尋ねた。
「うん大丈夫、ありがとう」
やはりその表情からは、日ごろの子育ての疲れと仕事への不安が見られる。
右折しようと、車を右端に寄せて信号の手前で停車させた。
その時、1人の少女と、彼女を複数人で囲む男たちが目に入る。
この街ではよくある話だ。
だが、何故かその様子が気になってしまう。後ろ姿しか見えないが、少女は目線を下に落とし、男らが煽っている様に見える。
「嫌な感じね」
みかんが言った。バックミラーで確認すると、彼女も同じ集団を見ているらしい。
スバルが気になったのはそれだけではない。
その少女の後ろ姿に、どこか懐かしさを覚えたのだーー。
最初のコメントを投稿しよう!