臨時出勤

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「はい行けます…15分くらいで着きます」 その辺にあった薄いパーカーを羽織って家を出る。 木造アパートは防音性が低く、わざわざ休日に家を出なければならなくなった苛立ちがドアのバァン!という音に表れる。隣の部屋にも響いただろう。 スバルは、そんなことは一ミリも気にせずに家を出た。  職場までは徒歩で向かう。 もちろん、自分の車を買う金はなく仕事で使う車は社用車だ。 パーカーに両手を突っ込んで歩く。 朝とはいえ歌舞伎町のため、客引きにはついていかないでくださいなどとアナウンスが響きわたる。まったく、治安の悪い街だ。 朝からナンパの様子も確認できる。 ピアスを付けた男が、長いつけまつげが特徴のポニーテールの女に声をかけている。女もまんざらでもなさそうだ。 歌舞伎町の街に馴染む男女を見ながら、着古されてぼろぼろになった自分の服に触れる。 そろそろ買い替えか・・・。 だが、そんな金もないーー。
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