オンラインだからこそできるデート

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オンラインだからこそできるデート

 指に力を入れてパソコンの電源を入れる。カチ、と微かに音がして、起動音が続いた。画面がパッと明るくなってウィンドウが表示される。そこから、ビデオ通話ができるアプリを開いて、少し設定を弄る。これで、恋人とデートができる準備が整った。  本当はちゃんと会って話したいが、今は感染症が流行っている時期だ。仕方ないからオンラインでデートしようということになり、この前から度々オンラインでデートをしている。会えないのは残念だが、オンラインだからこそ、奥手な恋人が乗り気になってくれたこともある。それはオンラインならではだろう。 「あ、声聞こえてる? 楓〈かえで〉」 「うん、ちゃんと僕に聞こえてるよ」 「そう? 良かった!」  画面越しにいる恋人の渚は、しっかりメイクをして髪も綺麗にセットされていた。肩にかかるくらいの黒髪が、ふんわり内巻きにされている。 「渚、この前とメイク変えた?」 「うん、変えたよ!」 「アイラインと……マスカラかな?」 「そうだけど……よく分かったね」 「まあね」  この前はナチュラルメイクだった。今回も派手に変えてはいない。だが、アイラインの引き方が前回と変わっている。少し垂れ目がちに見えるように下げて引いている。また、マスカラは前回黒一色だったが、少し赤みが増している。多分、この色合いはボルドーだろう。赤いマスカラと聞くと、派手な感じを想像するが、実際はナチュラルメイクと相性がいい。些細な変化で印象が大きく変わるのだ。 「……うん。よく似合ってる」 「えへへ、ありがと」  照れくさそうにはにかんで笑った。この笑い方が僕は好きだ。とても渚らしい。 「メイク、上手くできたか心配だったんだよね……似合ってるって言って貰えて嬉しい」 「すっごい上手いよ」 「え、本当? こないだ教えてもらったからかな」 「渚は器用だし覚えるのも早いよね」 「えー、そんなことないよ!」 「そんなことあるよ」  にこにこしながら謙遜するが、嬉しそうなのは隠せていない。確かに、正面から褒められると、嬉しくもあるが照れくさいものだ。 「そういえば楓も髪色変えたよね?」 「ああ、うん」 「明るめの茶髪も似合うね! かっこいい」 「はは、ありがとう」  僕も僕で、前回のオンラインデートの時とは髪色と髪型を変えてみた。髪色はかなり変わっているから気づいてくれるだろうとは思っていた。目を輝かせて、かっこいいと賞賛された。本心から思ってくれているようでかなり嬉しい。 「それにしても、ビデオ通話だとはっきり顔が見えるから、楓の顔面の良さが直接伝わってくるよ……」 「え、なに。僕がイケメンって褒めてくれてるの?」 「うん。だってイケメンじゃん」 「えぇー、渚も可愛いと思うけど」 「止めてよー! そんなまじまじと見るな!」 「せっかく可愛いだからいいじゃん」 「良くない!」  こんな軽口を言い合いながらオンラインデートは進んでいった。時間はあっという間で、感覚としては二、三十分くらいなのに、三時間以上が経っていた。 「ああ、もうこんな時間か」 「早いね……」 「そろそろ終わりにする?」 「うん。名残惜しいけどね」 「まぁ、またすぐできるよ。次はいつがいい?」 「次……三日後の金曜日はどう?」 「うん、大丈夫。じゃあまたその日に」  次の約束を取り決めた後、別れの挨拶を交わし、ビデオ通話を切った。もうパソコンですることは無いので電源も切る。  僕は伸びをして椅子から立ち上がった。そして、ウィッグを外して、メイクも落として男装を解く。 「はぁ……男装と女装しながらのデートなんてできるのは、オンラインデートくらいだもんなぁ」  男装趣味の僕と女装趣味の渚。互いに生まれ持った性別とは違う装いをしてオンラインデートをしている。本当は街でもできたら良いのだが、渚は「バレたら嫌だ」ということでしてくれない。世間体を気にしているのだろう。僕は平気でも相手に強いるわけにはいかない。  普段は互いの家でのみ、男装や女装をしていた。だが、オンラインデートをすることになった時にお願いしてみたらオーケーをくれた。会えないのは嫌だが、オンラインならではの利点だ。 「ま、たまにはオンラインデートも悪くないかもね」  一人呟いてベッドに寝転んだ。次のデート日である三日後が楽しみだ。
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