第一章 花残月 

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  (三)俺にも言い分がある  俺は一人、職員室の机に向かい、大きくため息をついた。  女子高の美術教師になると、大学の友人に言うとみな一様にうらやましがった。しかし、そんなうらやましいものではない事が、すぐに判明した。女子高生にとって若い男性教師など、愛玩物にすぎない。  どこへ行くにも人がむらがり、何をしてもかわいいとしか言われず。まるでパンダにでもなった気分がした。パンダは人語を理解しないので心も傷つかないだろうが、俺は深く傷ついた。  あのギラギラと値踏みするような視線。クスクス笑い。あからさまな幼い誘惑。  同年齢の男の視線と言う物が存在しないこの空間で、彼女たちはどこまでも奔放にふるまう。男に人権はないのだ。  しかし、そんな事はどうでもよくなる事態が発生した。  桜の下で一目ぼれした彼女に、ここで再開したのだ。喜ぶべきか、悲しむべきか。                  *  次の日の朝、さっそく砂羽ちゃんが近付いてきた。昨日から何回かメッセージはきていたけど、はぐらかしていた。 「どうやった新任の先生。かっこよかった?」 「そうでもない」
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